T氏は高校生くらいの頃から車やバイクを触るのが大好きだったらしく、大抵の整備は自分でやってしまう。今年の冬、私が初めてのマイカーを中古で買うとき、飛騨市への移住を踏まえて色々相談したところ、雪国でも安心な4WDでシートヒーター付きの軽自動車を一緒に選んでくれ、しかも購入したあとの日常のケアもなにかと気にかけてくれる専属整備士さん的な超頼もしい存在。
そのT氏より、解体作業の一貫として廃材を処理場に運搬する役割を私にも担ってほしいと要望があり、そのため免許もオートマ限定解除の講習に来週から通う予定を組んだ。だがさすがにT氏のごついダットサンは私には難しそうで怖々していたところ、京都に掘り出し物の軽トラがあったとかで急遽2人で京都に向かうことになった。
なぜ2人で行くかというと、買ってすぐ仮ナンバーを取得して飛騨市まで持ち帰るため、現地での足が必要だったから。なので行きは1台、帰りは2台でのとんぼ返りの慌ただしい出張。ほんとはのんびり一泊してきたいところだが、なにせワンコ3匹留守番させるんでそうもいかない。
ところが肝心の出発日早朝、グレピ(デカい白ワンコ)2匹の散歩に出かけたT氏がなかなか戻らない。丸一日留守番させるから念入りに散歩してるのかな〜とか思っていたら、2匹のうち臆病なデビッド(左の子)だけを連れて真っ青な顔で帰ってきた。「ジャック(右の子)が脱走した、探しても見つからない。君は警察に電話してくれ、俺は車でまた探しにいく」と言い置き、車のキーを引っ掴んで出て行ってしまった。え…嘘でしょ…脱走?
すぐに飛騨警察に電話して一部始終伝える。すると、「それって白い大きな犬ですか?」と聞かれる。はい!そう!それです!!!「栄町のカラオケ喫茶の近くで目撃情報がありました」。すぐにT氏に電話し場所を伝える。15分?30分?経った頃だろうか、車に乗ってT氏とジャックが無事に帰ってきた。
ラブラドールの女の子を飼ってらっしゃる方が恐らくその子の匂いに惹かれて敷地に入り込んだジャックを保護し、しかも我が家の犬だと気づいて連絡して下さったらしい。T氏が現地に着いたとき、近所の女性達に取り囲まれたジャックは愛想を振りまいて大層ご機嫌だったそうで…T氏はぶん殴りたい気持ちを抑えて皆様にお礼申し上げて失礼したそうな。
飛騨警察に電話し無事保護した報告とお礼を伝え、出発予定時刻より約1時間遅れたが、2人で京都に向けて出発した。
京都では私がどうしても行きたかった和菓子屋さん以外どこも寄らず、目的の軽トラを無事入手し、役所で仮ナンバー取得し、飛騨への帰路についた。朝の脱走事件で精神的にものすごい疲弊していたせいか、2人とも運転がいつになく辛く、1時間ごとに休憩しながら夜9時前にようやく飛騨市に戻れた。京都からの帰路の3時間強、本当に疲れた…。翌々日の今日、飛騨から都内へ車を走らせた5時間の方がよっぽど楽に感じた。
ジャックが居なくなったと聞いたとき、T氏はもちろんだろうが私も寿命が縮んだ。T氏にとって我が子同然、今となってはもしかしたら我が子以上かもしれない愛息子のジャック。やんちゃでマイペースだけど、いつも変顔で笑わせてくれるジャック。君に万一のことがあったらパパはどうなってしまうんだろう…あんな顔面蒼白のT氏はもう二度と見たくない。ジャック、もう絶対に心配かけちゃダメだよ。